衛生管理者の勉強を始めようとして、独学にするか講座を使うかで迷っている方は多いと思います。
ただ、この疑問をネットで調べると、少し困ったことになります。検索して出てくる記事のほとんどが、講座を提供している会社のサイトか、講座を紹介して紹介料を得ているサイトだからです。
「独学は可能か」というタイトルの記事も、読み進めると最後は講座をすすめる形で終わります。そういう立場で書かれているので当然なのですが、判断材料としては使いにくいですよね。
そこでこの記事では、特定の講座をすすめません。代わりに、判断するための材料を並べます。取り上げるのは次のことです。
- 選択肢は2つではなく4つあること
- それぞれの費用を、同じ土俵で比べる
- 紹介料が出ないので、比較サイトに載らない選択肢
- 教育訓練給付金の、あまり知られていない落とし穴
- 独学が向いている人、向いていない人
読み終わるころには、自分がどれを選ぶべきか見えてくるはずです。
この記事の価格や制度は2026年8月時点で確認したものです。受講料や教材の価格は改定されることがあり、給付金の制度も変わることがあります。実際に申し込む前には、必ず各団体の公式サイトでご確認ください。
選択肢は2つではなく、4つある
「独学か通信講座か」という二択で語られることが多いのですが、実際にはもう少し選択肢があります。整理すると4つです。
| 選び方 | 費用の目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| 市販テキストで独学 | 3,000〜6,000円程度 | いちばん安い。自分で計画を立てる必要がある |
| 公的機関のテキストで独学 | 7,480円 | 中央労働災害防止協会が発行。内容は詳しいが読み物寄り |
| 労働基準協会などの講習会 | 1万4千円〜2万8千円程度 | 数日間の集合講座。地域の団体が実施 |
| 通信講座 | 1万6千円〜6万3千円程度 | 動画やサポートが付く。価格の幅が大きい |
これに、どの方法を選んでも受験料8,800円がかかります。
比較サイトで見かけるのは、たいてい1番目と4番目だけです。2番目と3番目は、紹介しても紹介料が発生しないので、アフィリエイトの記事には出てきません。
でも、この2つは選択肢として十分ありえます。順番に見ていきます。
比較サイトに載らない選択肢
中央労働災害防止協会のテキスト
中央労働災害防止協会、略して中災防という団体があります。労働災害の防止を目的とした団体で、労働安全衛生に関する図書を発行しています。
ここが出している衛生管理者向けの教材が、次の3冊です。
| 書名 | 価格(税込) |
|---|---|
| 衛生管理 上(第1種用) | 2,420円 |
| 衛生管理 下(第1種用) | 2,420円 |
| 衛生管理者試験問題集(第1種用) | 2,640円 |
| 合計 | 7,480円 |
後で説明する講習会でも、このテキストが使われています。つまり、講習で使う教材を自分で買って独学することもできる、ということです。
ただし注意点があります。このテキストは試験対策に特化した本ではなく、衛生管理の実務書に近い性格を持っています。内容は正確で詳しいのですが、市販の試験対策本のように「ここが出る」と絞り込んでくれるわけではありません。
読み物としてしっかり理解したい方には向いています。とにかく効率よく受かりたい方は、市販の対策本のほうが合うかもしれません。
なお、価格は改定されることがあります。実際、令和8年3月にテキストが変更されて価格が改定された、という案内を出している団体もありました。買う前に最新の価格を確認してください。
労働基準協会などが実施する受験準備講習会
これがいちばん知られていない選択肢だと思います。
各地の労働基準協会や労働基準連合会が、衛生管理者試験の受験準備講習会を開いています。数日間、会場に通って講師の説明を聞く形式です。
費用の例を挙げます。
| 団体 | 内容 | 費用(税込) |
|---|---|---|
| 北海道労働基準協会連合会 | 3日間 | 受講料14,400円(テキスト代別) |
| 兵庫労働基準連合会 | 会員価格 | 24,530円(受講料17,050円+テキスト代7,480円) |
| 兵庫労働基準連合会 | 非会員価格 | 27,830円(受講料20,350円+テキスト代7,480円) |
この講習会には、知っておくと得なポイントがいくつかあります。
まず、受講に資格はいりません。試験には受験資格がありますが、講習は誰でも受けられます。受験資格を満たす前に、先に勉強を始めることもできるわけです。
次に、多くの講習は第一種の内容で行われますが、第二種の試験範囲は第一種にすべて含まれます。そのため、第二種を受ける方も受講できます。案内にもその旨が書かれていることが多いです。
それから、地区の労働基準協会の会員企業だと、会員価格が適用されることがあります。勤務先が会員かどうか、総務に聞いてみる価値はあります。
デメリットもあります。開催日が決まっているので、その日程に合わせて休みを取る必要があります。会場も限られます。地方だと年に数回しか開かれないこともあるでしょう。
逆に言えば、「決まった日に会場に行く」という強制力が効く方には向いています。自宅で自分のペースで、というのが苦手なタイプの方ですね。
探すときは、「お住まいの都道府県名+労働基準協会+衛生管理者」で検索すると出てきます。
費用を考える前に確認したいこと
会社が出してくれる可能性がある
これは真っ先に確認してほしいことです。
衛生管理者の選任は、会社に課せられた義務です。常時50人以上の労働者を使う事業場では、衛生管理者を選任しなければなりません。つまり、あなたが資格を取ることで得をするのは、あなただけではなく会社でもあるわけです。
そのため、受験料や教材費、講座費用を会社が負担する制度を持っている会社は少なくありません。資格手当が出る場合もあります。
特に、会社から「取ってほしい」と言われて受ける場合は、費用の扱いを先に聞いておいてください。自腹で6万円の講座を申し込んだあとに「会社が出したのに」と気づくのは、もったいない話です。
会社が費用を出すなら、独学か講座かで悩む理由はかなり減ります。
教育訓練給付金の落とし穴
自分で費用を出す場合は、教育訓練給付金という制度が使えることがあります。
一般教育訓練給付金の場合、受講費用の20%が、修了後にハローワークから支給されます。上限は10万円です。雇用保険に入っていることが条件で、被保険者期間が3年以上(初めて使う場合は1年以上)必要とされています。
ここまでは、比較サイトでもよく紹介されています。問題はこの先です。
支給される額が4,000円を超えない場合は、そもそも支給されません。
この決まりが、衛生管理者の講座では効いてきます。20%が4,000円を超えるということは、受講料が20,000円を超えている必要があるからです。
衛生管理者の通信講座は1万6千円くらいから始まります。つまり価格帯のちょうど真ん中に、この境界線が引かれていることになります。
| 受講料 | 20%の額 | 支給されるか |
|---|---|---|
| 16,300円 | 3,260円 | 支給されない |
| 17,380円 | 3,476円 | 支給されない |
| 20,000円 | 4,000円 | 支給されない(超えていないため) |
| 24,000円 | 4,800円 | 支給される |
| 29,480円 | 5,896円 | 支給される |
| 39,000円 | 7,800円 | 支給される |
この表は、制度の決まりから計算したものです。
それともうひとつ、大前提があります。その講座が厚生労働大臣の指定を受けていなければ、金額にかかわらず対象外です。衛生管理者の講座でも、対象になっているものと、なっていないものがあります。
対象かどうかは、厚生労働省の教育訓練講座検索システムで調べられます。ハローワークの窓口でも確認できます。講座の公式サイトの表示だけを見て判断せず、自分で確かめておくと安心です。
なお、給付金が使えるかどうかの最終的な判断はハローワークが行います。細かい条件もあるので、あてにして計画を立てる前に相談しておくことをおすすめします。
独学が向いている人、向いていない人
費用の話が済んだところで、内容の話に移ります。
この試験は、独学の環境が比較的整っています。協会が過去の試験問題を無料で公開していますし、市販のテキストも複数出ています。
そのうえで、向き不向きを分ける要素を挙げます。
独学で進めやすい人
- 総務や人事で、社内規程や法令の文書を扱ってきた
- 看護や医療の仕事をしていて、体のしくみに馴染みがある
- 過去に何かの資格を独学で取ったことがある
- 自分で計画を立てて進めるのが苦にならない
- 受験まで時間に余裕がある
特に法令に慣れているかどうかは大きいです。関係法令は「常時50人以上」「14日以内」といった数字と条件の組み合わせを覚える科目なので、この形式に慣れていると進みが違います。
テキストの選び方は、教材選びの記事で詳しく解説しています。
講座や講習を検討したほうがいい人
- 法令の文章にも、体のしくみにも縁がなかった
- 何が重要で何が細かい話なのか、自分で判断する自信がない
- 会社から期限を切られていて、時間の余裕がない
- 一人だと続かないと自分で分かっている
- 会社が費用を出してくれる
いちばん大きいのは、2つめだと思います。テキストを読んでいて「これは覚えるべきなのか、読み流していいのか」が分からないと、時間がいくらあっても足りません。講座の価値は、そこを絞り込んでくれる点にあります。
迷ったら、先に無料で試せる
判断がつかない場合に、おすすめしたい方法があります。
協会が公開している公表試験問題を、1回分だけ解いてみてください。無料です。何も勉強していない状態で、何点取れるかを見ます。
その結果で、だいたいの判断ができます。
問題文を読んで意味が分かり、消去法で選べる感触があるなら、独学で十分いけると思います。逆に、問題文に出てくる言葉自体が分からない、選択肢の違いがまったく見えない、という状態なら、講座や講習を使ったほうが早いでしょう。
3,000円のテキストを買って積んでおくより、無料の問題を1回解くほうが、判断材料としては確実です。
ちなみに、公表問題は法令改正に対応していないという注意があります。この点は難易度と勉強時間の記事で説明しています。
通信講座を選ぶなら、どこを見るか
通信講座にすると決めた場合、何で選べばいいのか。価格以外に見ておきたい点を挙げます。
第一種と第二種のどちらに対応しているか
まず、これを確認してください。講座によって、第一種と第二種で別のコースになっていたり、価格が違ったりします。
自分がどちらを受けるべきかは、勤務先の業種で決まります。まだ決めていない方は、第一種と第二種の違いをまとめた記事を先に読んでみてください。
返金保証の条件
「不合格なら全額返金」をうたう講座がありますが、条件をよく読んでください。
多くの場合、所定の課題をすべて提出していること、期限内に受験していること、不合格通知を提出することなど、いくつもの条件が付いています。条件を満たせなければ返金されません。
逆に、条件を満たせる自信があるなら、保証が付いているぶん安心感はあります。
質問できるかどうか
独学との最大の違いは、分からないところを聞けることです。逆に言うと、質問サポートが付いていない講座なら、独学との差は動画があるかどうかだけになります。
質問の回数に制限があるか、どのくらいで返信が来るかも確認しておくといいでしょう。
教材が届くまでの期間
意外と見落とされる点です。申し込んでから教材が届くまでに日数がかかる講座もあります。
試験日から逆算して計画を立てているなら、教材の到着日も計算に入れてください。
結局どう決めるか
順番に確認していけば決まります。
- 会社が費用を出してくれるか確認する。出るなら、その範囲で選ぶ
- 公表問題を1回分、無料で解いてみる
- ある程度解けそうなら独学。市販テキストか中災防のテキストを選ぶ
- まったく歯が立たない、または一人だと続かないなら、講座か講習を検討する
- 決まった日に通うほうが続きそうなら、地域の労働基準協会の講習会を調べる
- 自分のペースで進めたいなら通信講座。給付金の対象かどうかも確認する
どの方法でも合格している人がいます。大事なのは、自分が続けられる形を選ぶことです。
主な講座の料金や、返金・給付金の条件は、通信講座を比較した記事でまとめています。
よくある質問
テキストは何冊必要ですか
基本のテキストが1冊と、問題集が1冊あれば足ります。過去問は協会が無料で公開しているので、そちらも使えます。
何冊も買い集めるより、1冊を繰り返すほうが結果につながりやすいと言われます。
講習会と通信講座、どちらが効果がありますか
どちらが優れているという話ではなく、性格の違いだと思います。
講習会は日程が固定されるぶん、強制力があります。通信講座は自分のペースで進められるぶん、自分で管理する必要があります。自分がどちらで続くかで選んでください。
安い講座と高い講座、何が違うのですか
主に、動画講義の量、サポートの手厚さ、返金保証の有無、教材の作り込みです。
ただ、高いほうが合格しやすいとは限りません。使わない機能にお金を払っても意味がないので、自分に必要なものが何かを先に考えたほうがいいと思います。
会社に費用を出してほしいと言いにくいのですが
言い方の問題かもしれませんが、そもそも衛生管理者の選任は会社の義務です。個人的な資格取得ではなく、会社の体制づくりに関わる話でもあります。
資格取得支援の制度があるかどうかを、まず総務や人事に確認してみてください。制度として用意されている会社は珍しくありません。
まとめ
整理します。
選択肢は独学と通信講座の2つではありません。中災防のテキストを使う独学と、労働基準協会などの講習会を入れると4つになります。後者2つは紹介料が発生しないため比較サイトに載りませんが、選択肢としては十分ありえます。
費用を考える前に、会社が出してくれないかを確認してください。衛生管理者の選任は会社の義務なので、支援制度がある会社は少なくありません。
自分で払う場合は、教育訓練給付金の条件を確認してください。支給額が4,000円を超えないと支給されないので、受講料が2万円以下だと使えません。安い講座を選んだら給付金が使えなかった、ということが起こりえます。
そして迷ったら、協会の公表問題を1回分だけ無料で解いてみてください。いまの自分の位置が分かれば、どの方法が合っているかは自然と見えてきます。
費用の全体像や進め方の順番は、完全ガイドにまとめてあります。
参考・出典
- 公益財団法人 安全衛生技術試験協会「公表試験問題」
- 公益財団法人 安全衛生技術試験協会「試験手数料」
- 公益社団法人 北海道労働基準協会連合会、兵庫労働基準連合会ほか各団体の受験準備講習会の案内(2026年8月時点)
- 厚生労働省「教育訓練給付制度」
この記事は2026年8月時点の情報をもとに書いています。受講料・教材価格・講習日程は各団体が改定することがあります。教育訓練給付金の支給要件や対象講座も変更されることがあり、実際に支給されるかどうかはハローワークの判断によります。申し込みや手続きの前に、必ず各団体および公的機関の最新情報をご確認ください。
